“トイレは無料が前提”日本人の有料トイレに対する意識

トイレのイメージ

日本有数の観光地である〝京都〟は、アメリカ大手旅行雑誌「トラベル + レジャー(Travel + Leisure)」の観光ランキングで、2014年、2015年の2 年連続世界一に選ばれました。年間5,500万人以上(2014年現在)の観光客が訪れる京都には以前、外国人を含む観光客をターゲットにしたユニット型の有料トイレが導入されたことがありました。

京都の観光エリアにあった有料トイレ

京都市は、2004年にJR二条駅前と阪急嵐山駅前に、2007年に清水寺境内にそれぞれ、ユニット型の有料トイレを1基づつ設置しました。このトイレは1回100円で利用するごとに、全自動で便器・便座・床を洗浄し、便座は更に消毒と乾燥を行う…というものです。

トイレ内部には便器の他に、跳ね上げ式のサイド手すり・ハンドソープとハンドドライヤー付きの洗面台、ベビーチェア・BGMや音声アナウンスが流れるスピーカー・緊急時相互通話システム・冷暖房設備…等々、〝至れり尽くせり〟の設備が備わっています。しかし残念ながら「利用者数が少なく、維持管理が難しくなった」という理由で2012年までに3基すべて撤去されました。

以前存在した京都二条駅前の有料トイレ

今は存在しいない、京都・二条駅前の有料トイレ

海外にある様々な有料のユニット型トイレ

海外の有料トイレいろいろ

そもそも日本は「公衆トイレは無料が当たり前!」と考える人が多い国です。また、有料トイレが一般的に広まっているヨーロッパの国でも、トイレ1回の使用料金は40~50円程度です。なぜ100円の有料トイレが設置されることになったのでしょうか?
この疑問について2004年当時、田中研究室のゼミ生だった藤岡稔洋さん(摂南大学2005年卒業)が卒業研究として、有料トイレの管理者であった京都市環境局事業部まち美化推進課の方にお話しを伺っています。

Q:無料の公衆トイレとの差別化について

A:ほとんどの女性が、公衆トイレを利用していないのが現状です。有料であっても、その分管理の行き届いた〝安全〟で〝清潔〟なトイレを提供することで、利用して頂けると考えています。

Q:有料トイレの使用料100円の設定について

A:有料トイレ1基当たりの年間維持管理費は300万円かかり、仮に使用料を10円で設定した場合、維持管理費はまかなえません。また“使用外目的”で簡単に中に入り、いたずらされることを考えました。50円と100円を検討した場合、50円玉より100円玉の方が多く流通していると考え、使用料を100円に設定しました。

一般開放されたコンビニのトイレ

京都の有料トイレで、設置後わずか4年で撤去されたのはJR二条駅付近のトイレでした。撤去要因のひとつに、近くに大型商業施設ができ、トイレ利用者が減少したことが挙げられました。日本では駅や商業施設等の公共的な建物には清潔で安心して利用出来るトイレが整備されているのが当たり前です。また1997年、大手コンビニチェーンのローソンが、買い物客への「トイレ開放宣言」をしました。それを機に他のコンビニチェーンにも広がり、近年では“コンビニのトイレは利用できるのが当たり前”になりました。都市部では至る所にコンビニがあります。日本の場合、ユニット型の有料トイレはヨーロッパのように広がる運命ではなかったのかもしれません。

身体が不自由な人の中には、お金を払ってでもトイレを利用したい人がいる

すべての人が同じタイプのトイレを利用できる訳ではありません。車いすを利用している人、ベビーカーを押している人などは、広いスペースが必要になります。また、トイレに介助が必要な方が男性で、介助する人が女性の場合は、男女別のトイレは利用できません。

2004年に身体の不自由な人を含む20代~80代の805人に調査をしました。質問は「1回100円のユニット型有料トイレがあれば利用しますか?」です。結果、多くの人は「我慢できない」「お腹が痛くなった」等の「緊急時であれば利用する」と回答しています。しかしオストメイト(人工肛門・膀胱を持つ人)は「100円払っても積極的に利用する」と考える人が目立っています。

有料トイレの料金が100円に対する身体障害者の意識

出典:老田智美「公共トイレのユニバーサルデザイン化に向けた整備手法に関する研究」東京大学 学位論文 2006

身体の不自由な人にとって、外出先に“利用できるトイレがあるのかどうか”は重要なことです。身体が不自由ではなくても“トイレが大変”な人はたくさんいます。いろんな人の存在を知ることで、今以上に安心して快適に利用できる“日本のトイレ環境”へと進化していくのだろうと思います。

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