認知症高齢者を地域で見守る環境づくり

くわのみ荘コミュニティ空間

地域の人が気軽に立ち寄れる高齢者施設に出会いました。そんな施設の皆さん、地域の皆さんが楽しくなる取り組みについてご紹介いたします。

地域のリビングとしての施設

施設が建つ地域はその昔は一面桑畑でした。現在は住宅地に変わりましたが近所にお店はなく、自動車で2.3分ほど走らせ食料品や日用品の買い出しをしなければならない不便なところです。

施設は買い物難民となった高齢者のために買い物ができる場所を提供しようと1階に売店を作りました。売店では地場産の野菜や加工食品にお菓子。それから持ち込みのハンドメイド作品などが販売されています。売店の横にはテーブルとイスがいくつも置かれ、買い物に来た人はそこでしばし井戸端会議に花を咲かせます。同じフロアの一角は海外から取り寄せたという大きな遊具セットやたくさんの絵本が置いてあります。施設の中ですがそこは無礼講、子供たちは元気に走り回り、疲れたら読書をして楽しみます。

施設は特別養護老人ホームで入居者は要介護3以上の人ですが、入居者の家族は面会に訪れると決まって1階へと降りてくるそうです。広いフロア―で入居者とその家族や買い物に訪れた人が子供たちの遊び声を聞きながらそれぞれに時を過ごす。施設の1階は、みんなが集まる地域のリビングのようです。

都会からこの地に嫁ぎ、ここで子育ての経験を持つ「くわのみ荘」理事長の跡部尚子さんが、ずっと胸に抱いていた「あったらいいな」を具現化させたら、施設は地域に強い根を張ることができました。

くわのみ荘売店

高齢者の昔の暮らしを想起させる生活に絡む品々を「とっとっと」空間が地域のコミュニティの場となっています
※「とっとっと」とは熊本弁で取って置くという意味

くわのみ荘こどもエリア

ここで暮らす高齢者のひ孫たちのために用意されたこどもエリア。ここではこどもたちが元気にあそびます

地域に開いた施設づくり

以前の特養は、収容型であり施設に入ることを「入所する」と表現しました。基本的な生活行為である食事と排せつと入浴をお世話する施設は、閉鎖的で地域と一線を画す雰囲気がありました。しかし現在は基本的な生活行為だけでなく、春のお花見にコンサートなど暮らしを楽しむ行事がいくつも行われ、「入所する」は「入居する」と表現が変わり、夏祭りやクリスマスなど地域の人々と一緒に楽しむイベントが行われ、閉鎖的から開放的になってきています。

現在は多くの施設が地域の人々を施設の中へ誘いながら理解を得る努力をしています。目指すのは、地域とつながりながら、地域で認知症の人々を見守る環境を作りです。

※  取材:2019年10月 現在

くわのみ荘お買い物風景

ここへの訪問者もショッピングを楽しみます

最後まで読んでいただきありがとうございます。

大佐古 和代(おおさこ かずよ)

U-plan代表 熊本県出身。
日本建築協会にて長年「建築と社会」誌の企画、編集、住まい・建築・まちづくり等の見学会、研究会、コンペ等の事業にかかわる企画担当する。現在、奄美大島の高齢者居住環境バリアフリー研究プロジェクトに参加。
高齢者施設調査・インタビュー多数。著書等では『扉』(パラリンピックゴールドメダリストの日々の生活とバリアフリーまちづくりの奮戦記)。『おもてなしの道標』奄美で描くユニバーサルデザイン-福祉環境と観光と-(デンマークと奄美の国際交流の姿を描く)がある。
熊本と大阪を行き来しながら一人暮らしの老親の遠距離介護を継続中。