色には感情があると言われています。例えば、赤は「暖かい・興奮する」、緑は「安らぐ」など。色を上手に使うと生活に変化を与えられ、感情や行動をコントロールすることも期待されています。あわせて生活環境をわかりやすくするためのアイテムとしても活用されています。
しかし、色の見え方、感じ方は一様ではありません。日本人男性の約20人中1人が、女性の場合は約500人中1人が「色覚異常」だと言われています。色覚異常とは網膜に存在する色を感じる3種類の細胞のいずれかが欠損している状態です。そのため特に赤や緑は大多数の人と色の感じ方が異なります。
また、超高齢社会の日本においては「発症原因の90%が加齢」と言われている「白内障」の人が多いことも忘れてはいけません。白内障とはレンズの役割を果たす水晶体が白く濁る状態です。そのため全体がぼやけて見えたり、暗いところが見えにくくなったり、色の区別がつきにくくなります。
生活環境をわかりやすくするために色を活用する際には、コントラスト(対比)の高い色の組み合わせが大切になります。
日本の老人ホームが家庭的なデザインに変化して久しく、そして「木目調の暖かな風合いとともに、落ち着きのある環境」をよく目にします。しかし白やベージュ系の環境に同じくベージュ系家具があると、人によっては色の区別がつきにくくなります。
デンマークにある視覚障害者のための休暇センター内のカフェには、黒い天板のテーブルが置かれています。白いコーヒーカップやお皿が目立つようにする工夫です。また老人ホームのトイレでは、白い便器を際立たせるために背景の壁の色を濃い色にしています。あわせてトイレの蓋にも色がついており、蓋の開閉状況が確認できるように工夫されています。
色数を多くすると「騒色」になってしまい、不快感や見えにくさにつながってしまいますが、ワンポイントでも環境に対しメリハリのある色使いを取り入れると、デザイン性と機能性を高めてくれます。
カフェコーナーにある黒い天板のテーブル。置かれた白いコーヒーカップが際立っている(写真左)。濃い色の壁の前にあることで形がはっきり見える白い便器(写真右)。
※ 本記事は、2014年2月7日付けの朝日新聞夕刊に寄稿・掲載されたものを、再編集したものです。