人は年齢を重ねるとともに身体の機能が低下していきます。それにより様々な生活場面においても支障をきたしかねません。トイレもそのひとつです。トイレはプライバシーが守られるべき場であり、且つ身体に不自由が生じたとしても、なるべく人の手を借りずにひとりで使いたい場です。
排泄や身体の衛生を保つことは、日常生活を送るうえで大きな意味を持ちます。そのため住まいづくりの基本はまず、機能的なトイレを実現することです。トイレと寝室は介助者がケアする場合に限らず、移動による身体的負担を軽減することにも配慮し、できるだけ近くにあるのが理想です。移動距離が長くなるほど、転倒事故のリスクが高まります。高齢者の家庭内事故では、段差などによる転落やつまずきよりも、同一面(平坦な床)でのつまずきによる転倒事故の方が多いからです。
トイレは車いすに乗った状態でも使える広さを確保すべきですが、実際には簡単なことではありません。「直径1.5mの円が入るぐらいの空間」が必要と言われていますが、その広さが用意できれば解決という訳ではないからです。例えば、トイレの手洗いボウルが便器の目の前にあれば、便器から立ち上がって身体をひねらずに済むので、楽に使えます。一方、介助が必要な場合は、便器の直前まで車いすで接近できる空間や、便器への移乗など介助者の立ち回り空間の確保が求められます。こうした様々な必要性を検討して、広さを決定する必要があります。
トイレ介助が必要な人への配慮は、広さの確保をはじめ、動作を補助する手すりの設置などが中心です。一方で加齢に伴い、排泄機能も低下する人がいます。そのため時にはトイレ内部を汚してしまうこともあり、介助する人・介助される人の双方に心理的なストレスが発生しやすくなります。
「高齢になれば粗相をすることもあるし、トイレは汚れるもの」という考えを前提に、水洗いの掃除ができ、ニオイもつきにくい材料を使用したトイレをつくることで心理的なバリアは軽減されるのではないでしょうか。
トイレの自立は生活の自立とおおいに関係があります。オムツに依存し、ベッド生活を指向する前に、できるだけ自分でできることを援助するトイレ環境を目指すべきだと思います。
トイレ内に掃除用の流し台を設置し、水による丸洗いを可能にしたトイレ事例(Ⓒ ヒロデザイン事務所)
床の仕上げは外構用長尺シートとし「乾式風」にしているが、防水加工をしているので水洗いが可能になっているトイレの改修事例(Ⓒ NATS環境デザインネットワーク)
※ 本記事は、2012年7月20日付けの朝日新聞夕刊に寄稿・掲載されたものを、再編集したものです。