アメリカで提唱された「ユニバーサルデザイン」。モノづくりだけでなく多くの分野で、注目される取り組みが日本では行われています。これを私は「日本型ユニバーサルデザイン」と称しました。あらゆる人にとって、やさしい社会、やさしい生活環境の実現をめざそうとしています。
「モノ」から「人」へ
テレビのコマーシャルをはじめ各種の広告にも登場し、よく知られるようになってきた「ユニバーサルデザイン」。もともとはアメリカで生まれた言葉です。その提唱者、ロナルド・メイス氏は7つの原則でその考え方を提示しています。多様な生活者に安全快適かつ、魅力的なものを提供しようという発想です。日本ではその考え方を、各種の製品開発など、ものづくりのデザインに導入し、「共用品」という形で普及を図ってきました。
【7つの原則】
1 誰にでも公平に利用できる
2 使う上で自由度が高い
3 使い方が簡単ですぐわかる
4 必要な情報がすぐに理解できる
5 うっかりミスや危険につながらないデザインである
6 無理な姿勢をとることなく、少ない力でも楽に使用できる
7 アクセスしやすいスペースと大きさを確保する
これまで福祉のまちづくりやバリアフリーといっていた場面においても、ユニバーサルデザインという言葉を用いるようになりました。しかし、そのとらえ方は意外と多様で、他の福祉のまちづくりやバリアフリーなどの言葉と明快に区別されていないことも多いようです。ただ、欧米に比して日本では、こうした「ものづくり」の分野だけでなく、生活のあらゆる面において「ユニバーサルデザイン」の考え方を展開しようとしているところに特徴があります。物理的な環境整備(ハード)だけでなく、サービス(ソフト)や心(ハート)のユニバーサルデザインを推進して行こうとするものです。
たとえば、当初は障がい者を対象とするバリアフリーが中心であった福祉のまちづくりは、高齢化の進展という社会状況もあり、障がい者という特定の人たちの問題ではなく、ユニバーサルデザインという言葉を用いて、社会全体に関わる問題として、考えるようになりました。とりわけ、私もお手伝いさせていただいた静岡県や熊本県、神戸市などの各地の自治体での取り組みは、これまでの福祉のまちづくりとは違って、「ユニバーサル社会」実現に向けた考え方が特徴的です。その中心は、日本各地に根付いていた「結い」 制度などに見られる「共助」の発想だといえます。
自転車進入防止柵と車イス専用ゲート
自転車による駅構内の通り抜け防止の為に自転車進入防止柵が取り付けられたが、車イス使用者が通行できなくなる為、「車イス専用ゲート」が設置されている。しかしベビーカーを押している人などにとっては通行が困難なゲートになっている。
「つながる」社会に向けて
年金や医療をはじめ、すべての人が安心して生活していくための社会保障は福祉先進国といわれる北欧諸国に比べると明らかに遅れています。高齢者や障がい者など、ひとり暮らしの人も多い一方で、こうした無縁社会といわれる状況に対して、東日本大震災をはじめとする災害が続く中、地域の人の分断・孤立から「つながり」の重要性が痛感されています。日常と同様に、そこでは弱者に「してあげる」発想でなく、お互いに「支え合う」関係が大切になります。
そもそも「福祉」とは、特定の人たちに何かをしてあげるという概念ではありません。もともと「しあわせ」につながる概念であり、「誰も」が対象です。その意味で、ユニバーサルデザインの目指す方向と同じといえます。
「日本型」の追及
高齢化などの進展で、これからより一層、誰もが安全快適に生活できる配慮が求められます。身近な生活の道具や空間での配慮を積極的に進めることが期待されます。しかし、ある人にとってバリアフリーになっても、他の人に対しては別のバリアを生み出すこともあります。すべての場面で、ユニバーサルデザイン的な発想が重要になってきます。
ユニバーサルデザインは、物理的な環境だけでなく、多くの社会サービスや制度、生活文化のあり方を含めて、みんなで創造していく取り組みであると思っています。もともと地域の生活で育まれてきた生活文化をふまえて日本の風土の中で、どうすれば、すべての人に優しい「日本型のユニバーサルデザイン」が実現できるか、考えていきたいと思います。
※ 本記事は、2012年4月13日付けの朝日新聞夕刊に寄稿・掲載されたものを、再編集したものです。