男女 “別” トイレと男女 “共用” トイレ

男女別トイレと男女共用トイレ

小さなカフェやレストランなどのトイレへ行くと、〝男女共用(兼用)〟の場合があります。それ自体、個人的には違和感はありません。しかし駅やデパート等の公共的な施設のトイレが男女共用になれば、少々戸惑ってしまうかもしれません。

デンマークで経験した男女共用トイレ

デンマークの第2の都市オーフスの幾つかの施設を訪問した際、男女共用トイレを実際に経験しました。一般的な「トイレブース」よりも広い、便器と手洗器が1セットとなった完全個室トイレが数個並び、その中に身障者用トイレも配置されていました。デンマークで男女共用トイレが広まりつつ理由のひとつに性的少数者(LGBT)への配慮があるようです。

LGBTとは、四つの言葉の頭文字
L=レズビアン。女性の同性愛者。  G=ゲイ。男性の同性愛者。  B=バイセクシュアル。両性愛者。  T=トランスジェンダー。心と体の性が一致しない人。

デンマークの公共施設にあった男女共用トイレ

日本の場合、公共的な施設のトイレは〝男女別〟が主流です。そのため学校や職場でのトイレや更衣室の〝性別〟について悩んでいる人たちがいます。そんな中〝「多機能トイレ」を利用できるようにしよう〟という動きがあります。性的少数者の生活環境向上に取り組む高松の市民団体「PROUD(プラウド)」は2015年6月、「どんな性別でも使えるトイレのマーク」を公募で決定し、多機能トイレへの掲示を働きかけしているそうです。

人気の高い多機能トイレ

日本の公共的な施設にある男女共用トイレといえば「多機能トイレ」です。近年の多機能トイレは広いスペースの中に、手すりが備わった便器の他、オムツ替え台や大人も利用できる折り畳式のベッド、オストメイト(人工肛門・膀胱を持つ人)用の流し台が設置されています。そのため、車イスを利用している人以外に、赤ちゃんを連れたお母さんの利用も目立ちます。

以前、筆者らはショッピングモールでトイレの利用状況について調査しました。乳幼児のいる家族連れの来店者の多いこのショッピングモールでは、幼児専用の「キッズトイレ」や、男女それぞれのトイレ内にオムツ替え台が設置されています。しかし乳幼児連れの来店者の多くは多機能トイレを利用していました。多機能トイレを利用する人は、赤ちゃんのオムツ交換をするだけではなく、一緒に連れている赤ちゃんの兄弟姉妹のトイレと、自身のトイレを同時にしていることがわかりました。このショッピングセンターの多機能トイレは常に〝使用中〟になっていました。

異性介助と多機能トイレ

バリアフリーやユニバーサルデザインの対象者を語る時、“高齢者”“障害者”と分けた言い方をすることがあります。内閣府が発表する「平成30年版 障害者白書」によると、在宅の身体障害者は428万7千人(平成28年現在)であり、内65歳以上人口の割合は72.6%(311万2千人)です。因みに、昭和45(1970)年の65歳以上人口の割合は30%程度でした。在宅の身体障害者の高齢化の要因の1つに“高齢者がかかりやすい病気があり、その後遺症”が考えられます。“高齢者がかかりやすい病気”の1つに「脳血管疾患」があります。2014年現在、脳血管疾患の患者数は117万9千人です。またその後遺症として「片麻痺」になる人も多くいます。

2010年、片麻痺者200人に調査した結果、内41人は外出先でトイレをする際、異性による介助を要する人たちでした。また41人中24%にあたる15人は車イスを利用していない人たちでしたので、多機能トイレの広いスペースは必ずしも必要としていません。高齢期の病気が原因で身体不自由になった場合、その介助は配偶者や子供など、家族に委ねられる傾向にあります。そのため“異性介助”になる割合が高くなります。

車いすは利用しないが異性介助のため多機能トイレを利用する人の割合

出典:老田智美、田中直人「脳卒中片マヒ者の後遺症状からみた外出時のトイレ利用環境に関する調査」
日本建築学会学術講演梗概集, 2011  

身体不自由者の中には男女共用トイレを希望する人がいる

2004年に身体の不自由な人を含む20代~80代の805人に調査をしました。質問は「男女共用トイレを希望しますか?」です。結果、身体が不自由な人ほど希望していることがわかりました。
日本では、「トイレの際、配偶者等の異性による介助が必要な人が増加する」という観点から、男女共用トイレを検討する時期がくるのではないかと考えています。まずは病院や福祉施設等、施設用途で男女共用トイレの導入を検討してもよいかもしれません。

出典:老田智美「公共トイレのユニバーサルデザイン化に向けた整備手法に関する研究」東京大学学位論文

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