最新研究として、認知症高齢者特有の症状にも配慮した生活環境の構築に取り組んでいます。高齢者の居住環境整備が急務と言われる昨今、特に認知症高齢者の周辺症状(BPSD※)にも配慮した居住環境の検討が重要だと考えます。特に症状から起因する状態の入居者には介護職員の対応による“鎮静”に委ねられますが、対応する“場”も必要です。
京都の特別養護老人ホーム協力のもと、認知症の入居者が幼少~壮年期を想起する懐かしい風景(回想法※)をデザインに取り入れた「カームダウン(気持ちを落ち着かせる)ユニット」を製作し、設置前後の行動変化や効果の有無について明らかにすることを目的に研究を進めています。
施設の供用部分には、「家に帰る」「会社へ行く」という言動のある人が“バスを待ちながら”精神鎮静する場としての「バス停」ユニットを、玄関ホールには、お菓子を選んだり食べたりしながら精神鎮静をはかり、且つ発話を促すための仕掛けの場としての「駄菓子屋台」ユニットを設置しました。居住エリアには回想法を導入した「おくどさん」「縁側」「お地蔵さん」の3つのユニットを、休憩コーナーとして設置しました。
各ユニットを利用した入居者からは、活発な発話がみられました。特に「お地蔵さん」といった日本人にとって馴染み深く、神聖性のある事物を導入したユニットには、多くの入居者が自発的に利用している様子がみられ、結果、カームダウンの場として一応の効果を得ました。
※ 周辺症状(BPSD:Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)とは、「中核症状」である脳障害が原因ではなく、認知症者の心理的要因が作用して起こる症状。症状には幻覚や妄想、暴力、興奮、徘徊などがある。
※ 回想法とは、懐かしい物等を利用し高齢者の発話のきっかけとする。会話することで、懐かしい・楽しい思い出を蘇らせ、心の安定を図る心理療法。